先日千葉で行われた、空のF1とも呼ばれているレッドブルエアレースに行ってきて、なんと日本人で唯一エアレースに参加している室屋義秀選手が優勝を果たしました!
そこに、運よく立ち会うことができたので、その時の様子や、エアレースとはどんなスポーツなのか、そこで戦う室屋選手はどんな方なのかについて少し書かせてただこうと思います。
エアレースは地上からたった30m付近をコースに設定して、そのコースを最短時間で飛んだ者が勝者となる、飛行技術や機体性能を競い合うモータースポーツです。海上や競馬場、ビル街を低空飛行でものすごいスピードで飛ぶ姿はとてもエキサイティングですが、最高速度は時速370㎞に達し、体にかかる負荷は10Gという、およそ私たちでは想像もできないような過酷なスポーツでもあります。
レッドブルエアレースは2003年に始まり、2015年から日本の千葉幕張で開催されるようになりました。
レッドブルエアレースというスポーツはまだ生まれてから12年ほどしか経っていない歴史の浅いスポーツです。またそのスポーツの特徴から、その中で競技選手としてやっていくのは非常に困難を伴います。まず、競技用の飛行機は大体一機3000万円します。これだけ高額の道具はほかのスポーツでもなかなかありません。また、飛行機を飛ばす練習場の確保や、飛行機のメンテナンスなど、競技以外で必要なことが山ほどあるのがエアレースというスポーツです。
そんなエアレースに参加できるパイロット達の経歴は、元空軍パイロット、航空会社を実家にもち、幼いころから飛行機に触れているような人がほとんどです。これらの事から客観的に見ても元から飛行機にかかわりがある人でないとなかなかエアレースパイロットになるのは非常に難しいと言えます。
そんなエアレースの日本人唯一のパイロットである室屋選手ですが、先ほど挙げたような経歴の人物かといえば、そんな事は全くなく、一般の日本家庭に育ち、日本の大学を出た、日本にはよくいる経歴の人物です。
そんな室屋選手がエアレースパイロットになる事は並大抵のことではありませんでした。そこには、奇跡といっていい出来事や出会いがたくさん出てきます。
一つ一つ素晴らしいエピソードですが、すべてを紹介していくのは難しいので、室屋選手が、どういう経緯で、飛行機に乗り始めたのか、どのようにエアレースパイロットになったのか、そういった室屋選手の半生がすべて描かれた本がミライカナイブックスから今年の6月5日に発売されました。タイトルは『翼のある人生』です。レースに行った際、何冊か頂いたのでマリン教室にも一冊贈呈しております。もし機会があれば、読んでみてください。
そんな室屋選手が父(福島大学教授白石 豊)のもとにメンタルトレーニングの指導を乞いにきたのは、2010年の事でした。当時、室屋選手は不調で、その年のエアレースの順位は最下位。また安全性の面の見直しから2011年からのエアレースの開催を中止する旨を運営から言い渡された直後の事でした。ただでさえ落ち込んでいた時にいつ再開されるかわからない開催中止の連絡は、それまでぎりぎりのところで頑張ってきた室屋選手の心のバランスを簡単に壊してしまいました。
そこで、なんとか心の健康を取り戻そうと色々な本を漁っていくうちに父の本にたどり着いたそうです。それも著者紹介を見たら、今現在住んでいる福島在住と書いてあり、これを見て室屋選手は何か不思議な縁を感じたそうです。
その後、定期的に父とのやり取りを通してメンタルトレーニングを行っていくうちに、競技成績だけでなく、室屋選手を取り巻く環境も大きく変わっていきました。競技成績は、エアレースが再開された2014年に、自身初めての表彰台に立ち、2015年は年間総合成績14人中6位になりました。環境面では、大型のスポンサーがつくことで資金面の心配をしないで済むようになりました。また優秀な技術者やトレーナーが集まる事で競技そのものに集中して挑める環境が整っていきました。勝つ準備は整い始めていたのです。
そして、2016年の6月5日、日本で2度目の開催であるレッドブルエアレース千葉幕張大会で、満を持して最高のフライトをした室屋選手が見事にエアレース初優勝を成し遂げました。
優勝インタビューで「現場にいるチームメンバーだけでなく、地元のメンバーの人もいますし、それを支援してくれる人、直接的でなくてもご飯を作ってくれる人、取材をしてくれる人、背景にいるファンの人たち、全部を含めてチームだと思っています。やはり、そういった人たちが集まってくれないと世界一にはなかなか届かない世界だと実感していました」とコメントしていたのが、室屋選手の背景を知っている人間としては非常に印象的であり、あまり涙を見せない父も感極まった様子でした。
室屋選手の成功を見ていると、やはり人と人との出会いの大切さ、後はそういった出会いのチャンスをしっかり逃さず捕まえていく大切さを改めて思い知ります。
幸運の女神には前髪しかない、という言葉があります。これはチャンスの女神には前髪しかないため通り過ぎた後、あわてて捕まえようとしても後ろ髪がなく掴む場所がない。うかうかしているとチャンスを手にすることができないという意味です。
自分のチャンスが来ていることに気づくことはなかなか難しいことです。また、それを捕まえようと動くのは多くの場合、大きな変化にもつながるため恐怖を伴います。
そういったものに打ち勝ち、大きなチャンスをつかめる人間は自分が何をやりたいか、どんな人間になりたいか具体的に想像できる人物だろうと私は思います。
そういった人物になるには、日々、ただ生きるのではなく、『よく生きる』、つまり目標をもって生きていくことが大切だろうと思います。
今回の幕張大会はそういったことを改めて考えさせられるよい機会にもなり、教えている子供たちに伝えていくだけでなく私自身も改めて、『よく生きる』を実践していかなければならないなと感じた出来事にもなりました。
室屋選手は、2016年年間総合優勝を目標に掲げて頑張っています。今後どういう活躍をしていくのか、皆さんももしよろしければ注目してみてください。